シャワーの止水栓が回らなくなる、いわゆる「固着」は、使用者にとって厄介な問題ですが、その背景にはいくつかの技術的な要因が絡んでいます。この現象を理解するためには、まず止水栓の基本的な構造を知る必要があります。一般的な壁埋め込み型の止水栓は、本体(主に真鍮製)、スピンドル(ネジが切られた軸)、コマ(先端で水路を塞ぐ部品)、そしてパッキン(水漏れを防ぐシール材)などで構成されています。水を通す、止めるという動作は、ドライバーでスピンドルを回転させ、コマを上下させることで行われます。固着の最も一般的な原因は、水道水に含まれるミネラル分の析出と蓄積です。特にカルシウムやマグネシウムイオンは、蒸発や温度変化によって炭酸カルシウムなどの硬い結晶(水垢、スケール)となり、スピンドルのネジ部やコマと本体の隙間に堆積します。これが接着剤のような役割を果たし、部品同士の動きを妨げるのです。この現象は、水の硬度が高い地域ほど顕著になります。また、金属部品の腐食も固着の一因です。真鍮製の部品も、長期間水にさらされると、表面に酸化被膜や緑青(ろくしょう)が発生します。これら腐食生成物が隙間に溜まると、摩擦抵抗を増大させ、回りにくくなります。異種金属が接触している場合、電位差による電食(ガルバニック腐食)が進行し、固着を助長することもあります。さらに、ゴムや合成樹脂製のパッキン類の劣化も見逃せません。経年劣化や水質の影響でパッキンが硬化したり、膨潤したり、あるいはスピンドルや本体に癒着したりすることがあります。これにより、スピンドルの回転が著しく妨げられるのです。これらの要因は単独で発生することもあれば、複合的に作用することもあります。例えば、水垢の堆積によってできた隙間に腐食が進行し、さらに劣化したパッキンが加わる、といった具合です。固着の防止策としては、理論上、定期的に止水栓を少量動かすことが有効とされます。これにより、水垢の堆積を防ぎ、部品の膠着をある程度抑制できる可能性があるからです。しかし、現実的には忘れがちであり、固着してから対処するケースが多いのが実情です。固着した際の潤滑剤の使用や加熱は、これらの堆積物や腐食生成物の結合を弱めたり、金属の微小な膨張を利用して隙間を作ったりする原理に基づいています。

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