その日は突然やってきた。いつものようにトイレを使い、レバーを引いた。ゴゴゴ、という音と共に水は流れたはずだった。しかし、便器の中には、まるで反抗するかのようにトイレットペーパーの白い塊がぷかぷかと浮かんでいた。最初は「まあ、もう一度流せばいいか」と軽く考えていた。しかし、二度目も、三度目も結果は同じ。水嵩だけが増していき、私の心臓は嫌な音を立て始めた。パニックになりながらスマートフォンを掴み、「トイレ 紙 浮く 流れない」と検索する。そこには、同じ悩みを抱える人々の声と、様々な解決策が並んでいた。私は藁にもすがる思いで、一つずつ試していくことにした。まずは「時間をおく」。30分後、期待を込めてレバーを引いたが、紙は少し形を変えただけで、まだそこにいた。次に試したのは「お湯」。火傷しないように45度くらいのお湯をバケツで運び、そっと流し込んだ。これで紙がふやけるはずだ。さらに30分待った。しかし、結果は変わらない。私の焦りは頂点に達していた。もう業者を呼ぶしかないのか。その考えが頭をよぎった時、洗面台の隅に追いやられていたラバーカップの存在を思い出した。正直、あまり使いたくはなかったが、背に腹はかえられない。使い方をネットで再確認し、意を決して排水口に押し当てた。ゆっくり押し込み、力強く引く。すると、「ズポッ」という手応えと共に、今まで見たことのないような力強い渦が発生した。そして、あれほど頑固に居座っていた白い塊は、一瞬でその渦の中に姿を消した。私は呆然と、静けさを取り戻した水面を見つめていた。あの絶望感と、解決した瞬間の解放感。この経験で、ラバーカップの偉大さと、トイレットペーパーは使いすぎると大変なことになるという教訓を、身をもって学んだのだった。