私たちは子供の頃から「トイレットペーパーは水に溶けるからトイレに流して良い」と教わってきました。それなのに、なぜ目の前で流れずにぷかぷかと浮いているのでしょうか。この矛盾した現象の謎を解く鍵は、「溶ける」という言葉の認識の違いにあります。実は、科学的に言うとトイレットペーパーは水に「溶解」しているわけではありません。砂糖や塩が水に溶けて透明になるのとは全く違います。正しくは、水の中で繊維同士の絡み合いが解け、バラバラに「ほぐれる(解離する)」のです。日本のトイレットペーパーは、この「ほぐれやすさ」が非常に高い水準で設計されています。JIS規格では、100秒以内に水中で十分にほぐれることが基準とされています。しかし、この「ほぐれる」ためには、十分な量の水と、水流による適度な攪拌、そしてある程度の時間が必要です。トイレットペーパーが流れずに浮いてしまうのは、この条件のいずれかが満たされていないからです。例えば、一度に大量の紙を流そうとすると、紙の塊の中心部まで水が浸透する前に、トイレの水の勢いが終わってしまいます。水の量が少なかったり、水流が弱かったりすれば、紙をほぐすための攪拌力も不足します。その結果、十分にほぐれていない紙の塊は、水の流れに乗ることができず、空気を含んでいるため比重が軽くなり、水面に浮き上がってきてしまうのです。つまり、トイレットペーパーが「水に溶ける(ほぐれる)性質」と、「トイレの排水システムでスムーズに流れること」は、イコールではないのです。この謎を解明すると、対処法もおのずと見えてきます。流す量を減らす、十分な水量で流す、少し時間をおいてほぐれるのを待つ。これらはすべて、トイレットペーパーが本来持つ「ほぐれる」能力を最大限に引き出してあげるための、理にかなった方法と言えるのです。
水に溶けるはずのトイレットペーパーが流れない謎